
奥播磨
創業は、明治17(1884)年。140年の歴史を重ねてきた蔵が現在にいたるまで実践してきたのは、蔵建物の入口に貼られた「手造りに秀でる技はなし」という家訓のとおりの酒造りだ。 6代目・下村裕昭さんは、蔵を継ぐために修業中だった若き日、合理的で低コストの酒の製造法を会得したことがある。「これで楽に酒造りができる」と意気揚々と生家の蔵に戻った下村さんがその新製法を提案すると、杜氏は「しようもないことを学んできましたな」と一蹴。 蔵は、従来の手造りの路線のまま変わらずに継続され、下村さんは、丁寧な手造りによる酒質の向上を模索し続けることに。平成5(1993)年には、旧来の銘柄「白影泉」に加え、地元の兵庫県産山田錦を全量使用し、特定名称酒のみで構成する新銘柄として「奥播磨」が誕生した。翌平成6年には、但馬流の杜氏が得意とする山廃仕込みにも挑戦。味幅と深いコクを持ち、熟成を重ねることでさらに味わいを増す山廃仕込みの純米酒は、現在にいたるまでこの蔵の替え難い個性のひとつとなっている。 現在は、平成元年生まれ、「人間は元気が基本」という親の思いを込められた7代目の元基さんが、純米酒のみを醸す全量純米蔵の指揮をとっている。純米酒造りに心血を注いだ父の背中を見続け、さらには戦後初の全量純米蔵・神亀酒造(埼玉)での修行も経て蔵に入った元基さんには、「純米酒のほうがかっこええやん」という矜持と共に「うちの酒は、熟成していけるのが強み」という認識も。 コロナ渦、全国各地で酒の流通が滞った時も「うちの酒は、たとえ売れ残っても劣化せずに待てる酒ですから大丈夫」と動じることがなかった。しっかりと手をかけた麹造りによる純米酒、それをさらに熟成させ、時に燗酒として味わう。時間の経過に負けないたくましい酒質は、飲む側にとっては限りなく優しい酔い心地をもたらす酒でもある。





